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静岡地方裁判所 昭和39年(行ウ)3号 判決 1968年11月25日

静岡県沼津市中沢田二三六の四

原告

平松はる江

右訴訟代理人弁護士

大蔵敏彦

右訴訟復代理人弁護士

小林達美

同県同市大手町一〇五番地

被告

沼津税務署長

中川庄次

右指定代理人検事

斉藤健

法務事務官 川島市二

国務訟務官 井原光雄

大蔵事務官 山下武

右当事者間の所得税決定処分等取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告の求める裁判

(一)  被告が、昭和三八年二月九日付で、原告の昭和三五年度分の所得税につき、その課税所得金額を金一、四二九、九四二円、うち譲渡所得金額を金一、三五三、六二四円とし、所得税額を金三一一、九七〇円とするとの決定および無申告加算税金七七、七五〇円を課するとの決定は、いずれもこれを取消す。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする

との判決を求める。

二、被告の求める裁判

主文第一、二項と同旨の判決を求める。

第二、当事者双方の主張

一、原告の請求原因

(一)  被告は、原告に対し、昭和三八年二月九日付で昭和三五年度中に原告に譲渡所得等があつたのにかかわらず、提出期限までに所得税確定申告書を提出しなかつたとして、原告の昭和三五年度分の所得税につき、その課税所得金額を金一、四二九、九四二円、うち譲渡所得金額を金一、三五三、六二四円とし、所得税額を金三一一、九七〇円とするとの決定および無申告加算税金七七、七五〇円を課するとの決定をした。

(二)  被告の右課税所得金額の決定は、原告が昭和三五年中に訴外入月孝一に対し原告所有の別紙不動産目録記載一、三の宅地および各地上の家屋を代金三、八五〇、〇〇〇円で売渡したとして譲渡所得金額を算出し、これに基づいて右課税所得金額したがつて所得税額を決定し、なお、右所得税額を基礎として右無申告加算税を決定したものである。

(三)  しかしながら、右入月に対する売却代金中には右不動産の対価のほか別紙商品目録記載の商品および同営業用什器備品目録記載の営業用什器備品ならびに沼津青果株式会社の仲買人権利(仲買人組合員の組合員資格の譲渡にともなういわゆる権利金。)の各対価をも含まれており、その合計代金総額が金三、八五〇、〇〇〇円なのであり、右不動産の実質的な売買代金は金一、〇〇〇、〇〇〇円以下であるから、被告のなした右各決定はいずれも違法である。

(四)  そこで原告は、昭和三八年三月八日被告に対し異議の申立をし、同年六月二七日名古屋国税局長に対し審査請求をしたが同年一二月一六日付で名古屋国税局長より請求棄却の裁決を受けた。

(五)  よつて、原告は、右各決定の取消を求めるため本訴に及んだ。

二、被告の答弁

(一)1  請求原因(一)、(二)項記載の事実を認める。

2  同(三)項記載の事実中、原告主張の代金総額およびその中にポマード、クリーム、糸類等の商品若干量の代価五〇、〇〇〇円程度および別紙営業用什器備品目録記載1ないし6、10ないし12、14および15の什器備品の代価ならびに仲買人権利の代価が含まれている事実は認めるが、その余の事実を否認する。

3  同(四)項記載の事実を認める。

(二)  しかしながら、原告の昭和三五年度分の課税所得金額は金一、六二九、六五一円であるから、被告のなした本件所得税の決定はなんら違法ではない。

その詳細は、以下のとおりである。

1 不動産所得 金一五四、九一八円

(イ) 沼津市本字七通りに所在する家屋沢田荘アパートの昭和三五年中の家賃収入金三六〇、〇〇〇円より必要経費金二八三、六八二円を控除した残額金七六、三一八円

(ロ) 同市中沢田字上中原二三六番地の四土地上に所在する工場、倉庫の訴外日本ドライクリーニング株式会社からの昭和三五年度中の賃料収入金一一六、〇〇〇円より必要経費を控除すべく、家賃収入の所得標準率八五パーセントに当る金九八、六〇〇円から、さらに右敷地の地代金二〇、〇〇〇円を差引いた残額金七八、六〇〇円

2 給与所得 金九六、〇〇〇円

日本ドライクリーニング株式会社代表者として昭和三五年度中の報酬金一二〇、〇〇〇円より改正前所得税法第五条第一項第五号に基づく控除率一〇分の二を差引いた残額金九六、〇〇〇円

3 譲渡所得 金一、二九二、四三一円

〔Ⅰ〕 本件譲渡価額金三、八五〇、〇〇〇円のうち、譲渡所得の対象となるのは、土地、家屋、什器、備品等の資産であるから、本件譲渡物件のうち、商品および前記仲買人権利はこれに属しないので、右商品代価金に〇、〇〇〇円および右仲買人権利金五〇、〇〇〇円、計一〇〇、〇〇〇円を右譲渡価額から控除した残額金三、七五〇、〇〇〇円が本件譲渡所得の対象となる。

〔Ⅱ〕 控除すべき取得価額 金一、〇一五、一三八円

(イ) 別紙不動産目録一の宅地

取得時期……昭和二三年一一月一八日沼津市より訴外文本丁得と共同で昭和三一年本件土地を分筆前の土地同番の二六宅地四九坪七合三勺(持分の二分の一)を取得

取得価額……(1) 購入代金一七、二二〇円(右分筆前四九坪七三の代金三四、四四〇円の二分の一)

(2) 再評価額金五五、一〇四円

右土地取得時期が昭和二八年一月一日以前であるので、所得税法第一〇条の四第二項、資産再評価法第三条による同法別表七の再評価倍数三・二として再評価したもの。

(3) 測量、登記等の費用合計金四、〇〇〇円

右(1)ないし(3)合計金五九、一〇四円。

(ロ) 別紙不動産目録二の家屋

取得時期……(1) 一階一九坪三合七勺・二階八坪は昭和二四年一二月原告の建築による。

(2) 増築は一階六坪のみで、昭和二六年一二月である。

取得原価……(1) 一階一九坪三合七勺・二階八坪の建築費用金二七三、七〇〇円(坪当り金一〇、〇〇〇円)

(2) 六坪の増築費用金一〇二、〇〇〇円

右(1)の価額は原告の夫通称杉山豊国の申立によるが、これは、次の点からも妥当である。すなわち昭和三六年七月、訴外入月孝一が訴外沼津相互殖産株式会社に右家屋を譲渡したときにおける同建物の新築見込価額を相続税の「戦後建築家屋の評価基準」に算定すると坪当り金四〇、〇〇〇円となるので、これを基礎として昭和二四年一二月における新築価額を木造建築費指数により推計すると坪当り金一〇、一七六円であり、また右譲渡当時における坪当り価額金二五、七一八円を基礎としてそのときにおける再建築価額を推計し、さらに日本不動産研究所発行の全国木造建築費指数により昭和二四年一二月の建築費を推計すると坪当り金一〇、四四四円となるからである。

右(2)の六坪増築価額は右(1)の建築費坪当り金一〇、〇〇〇円をもとに木造建築費指数により推計したものである。

再評価額……右(1)の家屋の建築費用金二七三、七〇〇円に再評価倍数一・〇(資産再評価法別表一)を乗じた金額金二七三、七〇〇円が再評価基準日(昭和二八年一月一日)現在の再評価額である。

右(2)の六坪の増築費用金一〇二、〇〇〇円については再評価を行わない方が原告に有利なのでこれを行わない。

減価償却額…右(1)の家屋の減価償却額は金六〇、七二〇円である。

<省略>

再評価額 残在価額 30年の減価 経過年数償却率

右(2)の増築分六坪の減価償却額は金二九、一三一円である。

<省略>

増築費用 残在価額 30年の減価償却率 経過年数

取得価額……別紙不動産目録二家屋の取得価額は金二八五、八四九円である。

右(1)の家屋の昭和三五年三月における取得価額は再評価額金二七三、七〇〇円から減価償却額金六〇、七二〇円を控除した金二一二、九八〇円であり、

右(2)の昭和三五年三月における取得価額は取得原価金一〇二、〇〇〇円から減価償却額金二九、一三一円を控除した金七二、八六九円となるので

同目録二の建物全体の取得価額はその合計金二八五、八四九円である。

(ハ) 別紙不動産目録三の宅地および同目録四の家屋

取得時期及び価額…右土地家屋を一括して昭和三二年一〇月訴外広田正から金五〇〇、〇〇〇円で買受けた。

価額の配分…右一括代金の土地、家屋別の配分は資料を欠き不明につき、これと近接類似している同目録一、二の土地および家屋につき、その譲受人入月孝一が昭和三六年七月これを訴外沼津相互殖産株式会社に譲渡した価額(土地につき坪当り金二八、〇〇〇円計金一、一六八、一六〇円、家屋坪当り金二五、七一八円計金二五七、一八〇円)を実例として、これに基づき、さらに日本不動産研究所調査発表による不動産価額指数に則り取得時期当時の価額を算出し、その比率をもつて按分するのが妥当である。

しかるときは、土地金三四七、七四五円、家屋金一五二、二五五円となる。

宅地の取得価額…購入代金三四七、七四五円

家屋の取得価額…(1) 購入代金一五二、二五五円

(2) 増築代金一〇〇、〇〇〇円(昭和三二年一〇月二階八坪の増築費用)

(3) 減価償却額金一九、二九七円(前記(ロ)の場合と同様定額法による)

取得から譲渡までの経過年数二年六月

<省略>

よつて、取得価額は(1)(2)の和と(3)との差額金二三二、九五八円となる。

(ニ) 什器、器具類……別紙営業用什器備品目録記載のとおり 金八九、四八二円

取得時期……いずれも昭和三〇年初頃までに取得

取得価額……(1) 購入単価はいずれも静岡市内専門店の実例を参照して認定した。金一六六、五〇〇円

(例えば、田久陳列ケース店、菱電商事静岡出張所(冷蔵庫)、萩田度量衡店(秤)、青色申告の青果食料品小売店減価償却明細書など)

(2) 減価償却額金七七、〇一八円、前記(ロ)の場合と同様定額法による。

〔Ⅲ〕 差引譲渡所得 金二、七三四、八六二円

〔Ⅰ〕収入金額(譲渡価額)金三、七五〇、〇〇〇円よりⅡ取得価額金一、〇一五、一三八円を差引控除した金二、七三四、八六二円

これに所得税法第九条を適用すると

〔Ⅳ〕 特別控除 金一五〇、〇〇〇円

〔Ⅴ〕 課税譲渡所得金額 金一、二九二、四三一円<省略>

4 事業所得 金八六、三〇二円

原告は昭和三五年一月から本件土地家屋を入月孝一に譲渡した同年三月中旬までに金八六、三〇二円を下らない事業所得があつた。これは、原告が売上・仕入等に必要な記帳を行つていないので、右期間内の仕入先および仕入金額からの推計である。すなわち仕入明細は次のとおりである

<省略>

しかして、右仕入金額金四六〇、二八三円に対し平均差益率(売上高と売上高から売上原価を控除した売上利益との比率)二〇パーセント、平均所得率(売上高と売上高から売上原価および必要経費を控除した所得金額との比率)を一五パーセントを基礎として事業所得金額を計算すると、

(イ) 前記仕入金額に差益率を乗じて昭和三五年一月一日から本件譲渡時期までの売上高を推計すると金五七五、三五三円

<省略>

(ロ) 右売上高に所得率を乗ずると金八六、三〇二円となり、これが同期間の事業所得である。

以上のように原告は、昭和三五年度中に右1ないし4の所得があり、課税所得金額は金一、六二九、六五一円となるから、これ以下である原決定の課税所得金額金一、四二九、九四二円、所得税額金三一一、九七〇円の認定は違法ではなく、原告は同年度に右所得があつたのに同年度の所得税確定申告書をその提出期限である昭和三六年三月一五日までに提出しなかつたものであるから、被告は、改正前所得税法第四四条第四項にもとづいて前記のとおり決定するとともに同法第五六条第三項により左の計算により無申告加算税額を決定したものである。

(イ) 計算の基礎となる所得税額金三一一、九七〇円(ただし、金一、〇〇〇円未満の端数切捨)

(ロ) 割合一〇〇分の二五

(ハ) 無申告加算税額金七七、七五〇円

よつて本件無申告加算税額の決定もなんら違法ではない。

三、答弁に対する原告の主張

(一)  被告主張の不動産所得および給与所得は認める。

(二)1  被告主張の譲渡所得〔Ⅰ〕記載の事実について、控除すべき商品代価が金五〇、〇〇〇円であることを否認し、その余の事実を認める。

2  控除すべき取得価額中〔Ⅱ〕(イ)別紙不動産目録一の宅地に関する部分はこれを認める。

3  同〔Ⅱ〕(ロ)別紙目録二の家屋に関する部分については、昭和二五年一〇月原告が金五四七、四〇〇円の費用をもつて建築し、同三〇年一〇月、原告は金一五〇、〇〇〇円の費用をもつてこれに約七坪増築したものである。本件譲渡は同三五年二月であるからその減価償却費は金一九、八七五円

<省略>となるから、その取得価額は金一三〇、一二五円である。

4  同〔Ⅱ〕(ハ)別紙不動産目録三の宅地および同目録四の家屋に関する部分については、当初その取得時期および一括した取得価額を認めると述べたが、右自白中取得時期の点は真実に反し錯誤に基づいてされたものであるからこれを徹回し、原告主張の右取得時期を否認する。その取得時期は昭和三二年七月である。

価額の配分、宅地、家屋の各取得価額は争う。

原告は右家屋取得と同時に改良費として次の如く合計金一五八、〇〇〇円を支出している。

(イ) 土間のコンクリート改造代 金四〇、〇〇〇円

(ロ) 電灯動力増設工事代 金三八、〇〇〇円

(ハ) トタン製看板代 金四〇、〇〇〇円(店舗と一体をなしている)

(ニ) ガラス戸八枚代 金四〇、〇〇〇円

さらに、原告は増築代金として次の如く、合計金五五八、四三九円を支出した。

(ホ) 昭和三二年七月取得当時一階一二坪の増築のため、大工費用金二四、〇〇〇円、建築材料費金三〇〇、〇〇〇円

(ヘ) 昭和三三年八月二階八坪増築のため、大工費用金二〇、〇〇〇円、建築材料費二一四、四三九円

5  同〔Ⅱ〕(ニ)営業用什器備品に関する部分については、被告の主張は別紙営業用什器備品目録の被告主張部分記載のとおりである。したがつて、控除すべき取得価額は合計金二二五、四八一円である。

四、被告の反論

(一)  別紙不動産目録二の家屋に増築した事実は認めるがその面積は一階六坪のみである。その余の事実は知らない。

(二)  同目録三の宅地および四の家屋の取得時期についての原告の自白の徹回には異議がある。

(三)  同目録四の家屋に対する原告主張の改良事実は不知、同右家屋一階一二坪、同二階八坪の増築の事実は認めるが、その年月、費用額は知らない。

第三、証拠関係

一、原告

甲第一ないし第五号証、第六号証の一ないし八、第七号証を提出し、証人山田はつ枝の証言および原告本人尋問の結果を援用する。

乙第三号証の成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知。

二、被告

乙第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第六ないし第八号証、第九号証の一、二、第一〇ないし第二〇号証を提出し、証人高塚連作、同猿渡敬三、同入月良子の各証言を援用する。

甲号各証の成立は不知。

理由

一、被告は、原告に対し、原告の昭和三五年度分の所得税につき、その課税所得金額を金一、四二九、九四二円、うち譲渡所得金額を金一、三五三、六二四円とし、所得税額を金三一一、九七〇円とするとの決定をしたこと、および右年度中に右所得があつたのにかかわらず法定の提出期限までに所得税確定申告書を提出しなかつたとして無申告加算税金七七、七五〇円を課するとの決定をしたこと、同年度に、被告主張のとおり、原告に不動産所得金一五四、九一八円、給与所得金九六、〇〇〇円があつたこと、および原告が昭和三五年度中に訴外入月孝一に対し、別紙不動産目録記載一、三の宅地および各地上の家屋を、同所に現在した商品、同営業用什器備品(いずれもその品目、数量、価額の点は別として)および沼津青果株式会社の仲買人権利(仲買人組合の組合員資格の譲渡にともなういわゆる権利金)金五〇、〇〇〇円を含めて、代金総額金三、八五〇、〇〇〇円で売却した事実はいずれも当事者間に争がない。

二、本件譲渡所得について

たな卸資産等の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡により生ずる所得の対象となる資産は、資産の譲渡に因る所得すなわち譲渡所得の対象となる資産から除外されるから、まず本件売買当時、前記不動産中に在庫した商品の価額について検討する。

証人高塚連作の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一号証、同猿渡敬三の証言によつて真正に成立したと認められる乙第二号証、同第一〇ないし第一四号証、同第一七号証、成立に争のない乙第三号証(後記措信しない部分を除く。)に証人入月良子の証言および原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)を総合すると、訴外入月孝一は沼津市大手町で青果物商を営んでいたが債務が嵩み経営が思うにまかせなかつたためこれを他に処分し、転居せねばならぬ状態に立ち至つていたところ、原告が別紙不動産目録記載一、三の宅地および各地上の家屋をいわゆる居抜きで売る希望をもつていると聞きこれを買受けることとし、昭和三五年三月一日ごろ原告と右売買契約を締結したものであるが、その際、代価については原告が電話を含めて金四、〇〇〇、〇〇〇円と主張したのを右入月が電話は不要としてその価額を差引き金三、八五〇、〇〇〇円となつたものであり、その代価は結局原告の言値であり、当時の取引相場価額よりかなり高額であつたこと、原告は右売買成立当時右入月に対し在庫商品は金三〇〇、〇〇〇円程度ある旨述べており、右入月は金一〇〇、〇〇〇円程度とみていたが、商品に重きを置いた取引ではなかつたこと、右入月が右家屋に転居したのは同月一八日ごろであつたところ、原告は右売買成立後右入月の入居までの間同所で営業を継続したものの、従前どおりに商品の仕入を継続したものではないこと、右入月の入居当時の在庫商品について、右入月は、罐詰、つくだに、かんぴよう、えび等の乾物類、味噌、醤油、文房具類、ポマード、クリーム、洗剤石けん、ローソク、たわし、電球、カミソリ刃など金額にして約金五〇、〇〇〇円ほどであつたと評価していること、以上の事実が認められ、右乙第三号証ならびに証人山田はつ枝の証言および原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上認定の事実によれば、本件売買代金中の在庫商品の価額は金五〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

そして、前記沼津青果株式会社の仲買人権利金五〇、〇〇〇円が右売買代金中に含まれていることは当事者間に争がなく、右権利の対価も本件譲渡所得の対象となる資産とは解せられないから、これと右在庫商品価格金五〇、〇〇〇円との合計金一〇〇、〇〇〇円を本件売買代金総額金三、八五〇、〇〇〇円から差引いた金三、七五〇、〇〇〇円をもつて本件譲渡所得の対象となる資産の対価すなわち本件資産の譲渡に因る所得と認める。

三、次に、右所得から控除すべき取得価額、改良費および譲渡に関する経費について検討する。

(一)  別紙不動産目録一の宅地の取得時期、購入代金、再評価額および測量、登記等の経費については当事者間に争がなく、控除すべき取得価額は金五九、一〇四円となる。

(二)  同目録二の家屋およびその増築部分について

(1)  取得時期および取得原価

成立に争のない乙第三号証、証人猿渡敬三の証言によつて真正に成立したと認められる同第四号証に原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を総合すると、原告は、昭和二四年一二月に同目録二の家屋を坪当り金一〇、〇〇〇円の費用をもつて建築し、同二六年中に一階店舗六坪を増築した事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず他に右認定を左右する証拠はない。以上の事実によると右目録二の家屋の建築費用は金二七三、七〇〇円となる。そして、右店舗六坪の増築価額については、右証人猿渡の証言によつてこれが同目録二の家屋部分と同一程度と認められるので、同証人の証言によつて真正に成立したと認められる乙第六号証の全国木造建築費指数によつて昭和二四年一二月における坪当金一〇、〇〇〇円を基礎として増築時の価額を推計すると次のとおり金一〇二、〇〇〇円となる。

<省略>

17,000×6坪=102,000円

(2)  再評価額

右目録二の家屋についてはその建築費用金二七三、七〇〇円に再評価倍数一・〇(資産再評価法別表一)を乗じた金額金二七三、七〇〇円が再評価額であり、右店舗六坪の増築部分については、被告は、その再評価をして再評価額より減価償却費を控除するより、取得原価よりただちに減価償却費を控除した方が原告に有利であるから再評価は行わない旨主張し、計数上そのとおりと認められるからその再評価をしない。

(3)  減価償却額

以上認定の事実によれば、別紙目録二の家屋の再評価基準日(昭和二八年一月一日)より本件譲渡時までの経過年数は七年三ケ月、その耐用年数は三〇年(所得税法施行規則第一〇条第二項)、耐用年数三〇年の減価償却率は〇・〇三四(昭和二六年大蔵省令第五〇号別表1)残存価額は一〇〇分の一〇(右規則第一二条の一三)であるから、その減価償却額は次のとおり金六〇、七二〇円となる。

<省略>

また、以上認定のとおり前記店舗六坪の増築部分の取得時より右譲渡時までの経過年数は九年四ケ月であり、その耐用年数、減価償却率、残存価額は前記家屋のそれと同一であるから、その減価償却額は次のとおり金二九、一三一円となる。

<省略>

(4)  取得価額

別紙目録二の家屋の昭和三五年三月における取得価額は再評価額金二七三、七〇〇円から減価償却額金六〇、七二〇円を控除した金二一二、九八〇円であり、右店舗六坪の増築部分のそれは、取得原価金一〇二、〇〇〇円から減価償却額金二九、一三一円を控除した金七二、八六九円となる。

したがつて、同目録二の家屋およびその増築部分についての取得価額は右各金額の合計金二八五、八四九円となる。

(三)  同目録三の宅地ならびに同目録四の家屋およびその増築部分について

(1)  取得時期および取得原価

(イ) 右土地家屋の一括した取得原価が金五〇〇、〇〇〇円であることは当事者間に争がなく、原告は当初その取得時期が昭和三二年一〇月であることも認めると述べたが、後に右自白を撤回し、その取得時期は昭和三二年七月である旨主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に副う部分も存するが右は弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第二〇号証の記載に照らして措信できず、他に原告主張事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の右自白が真実に反したものであると認めるに由なく、右自白の撤回はこれを容認することができず、結局右取得時期についての自白は拘束力があるといわねばならない。

(ロ) そして、当事者間に争がない右一括しての取得原価金五〇〇、〇〇〇円を右土地家屋別に配分するについては直接の証拠はなく、他に適切な配分方法はないから、被告主張の方法によらざるをえないところ、証人高塚連作の証言によつて真正に成立したと認められる乙第七号証および同証人の証言によると、訴外入月孝一は昭和三六年七月七日訴外沼津相互殖産株式会社に対し別紙目録一の土地および同地上の建物を譲渡したがその際の土地の代金は坪当り金二八、〇〇〇円であり、家屋のそれは坪当り金二五、七一八円であると認められるところ、右証人および原告本人尋問の結果によれば、右土地家屋と同目録三、四の土地建物とは道路をはさんで対面しその状況が近接類似していると認められ、特段の事情が認められない限りその価額の決定について双方ほとんど差異はないものと解されるので、右坪当りの価額を右目録三の土地の面積に乗ずると金一、一六八、一六〇円となり、同目録四の家屋の面積に乗ずると金二五七、一八〇円となる。右金額を基準として、土地については弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認められる乙第八号証の全国市街地価格指数家屋については同第六号証の全国木造建築費指数により原告の右土地家屋取得当時の価額を換算して算出し、その比率をもつてこれを土地家屋別に按分する方法によると、土地については、取得時期である昭和三二年一〇月の指数がないから近似の同年九月のそれである一六二を採り、譲渡時期である同三六年七月の指数としては同年三月の指数三九九と同年九月のそれである四六七の平均値四三三を採り、家屋については同様取得時期の指数として昭和三二年九月の指数一一一を採り、譲渡時期である同三六年七月の指数としては前同様の平均値一四九・二を採り、取得時期の価額に換算した土地と家屋との比率

<省略>

をもつて、前期一括した取得原価金五〇〇、〇〇〇円を按分すると、土地の取得原価は金三四七、七四五円家屋の取得原価は金一五二、二五五円となる。

(ハ) 右家屋に、原告が二階八坪を増築したことは当事者間に争がない。そこで、その時期、費用についてみるに、成立に争のない乙第三号証によれば右増築の時期は買受けた直後であり、その費用は約一〇〇、〇〇〇円であつたものと認められ、前記のとおり右買受の時期が昭和三二年一〇月であることは原告の認めるところであるから、右増築の時期はそのころと認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、甲第四、五号証の記載も右証拠に照らして措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。なお、原告は右家屋取得と同時に改良費として合計金一五八、〇〇〇円を支出した旨主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに符合する供述があり、甲第一ないし第三号証中にもこれに副うような記載があるが、これによると、右支出の年月日は、前記認定の、原告が右家屋を取得した時期以前であるということになるからこれを措信せず、また原告は昭和三二年七月に一階一二坪を増築した旨主張し、その時期の点はともかく増築自体は当事者間に争がなく、右時期の点について原告本人尋問の結果中には原告の右主張に符合する供述があり、甲第四、五号証にもこれに副うような記載があるが右同様の理由により、これを措信せず、他に右増築の時期の点を認めるに足りる証拠はない。そうとすれば右一階一二坪の増築についても、右認定の右二階八坪の増築からこれを推計するのを相当とすべく、その時期は早くとも右二階八坪と同時期とし、その費用は同様坪一二、五〇〇円とすると増築費用は金一五〇、〇〇〇円となる。したがつて右一階一二坪、二階八坪の増築費用は合計二五〇、〇〇〇円と認める。

(2)  減価償却額

以上認定の事実によれば、別紙目録三の宅地上の家屋の取得原価は、前記按分にかかる同目録四の家屋の購入代金一五二、二五五円と増築代金二五〇、〇〇〇円の合計金四〇二、二五五円であり、右取得時より譲渡時までの経過年数は二年六ケ月、その耐用年数、減価償却率、残存価額は前記(二)の(3)の場合と同一であるから、その減価償却額は次のとおり金三〇、七七二円となる。

<省略>

(3)  右家屋の取得価額

右家屋の昭和三五年三月における取得価額は右取得原価金四〇二、二五五円から減価償却額金三〇、七七二円を控除した金三七一、四八三円となる。

(四)  什器、備品類について

前記乙第一、二号証および証人入月良子の証言によると、原告が訴外入月孝一に別紙不動産目録一、三記載の宅地および各地上の家屋を居抜きで譲渡した時、同所にあつた営業用什器備品は、別紙営業用什器備品は、別紙営業用什器備品目録1ないし6、10ないし12、14および15の各物品であつたと認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そして前記乙第三号証、証人高塚連作の証言によつて真正に成立したと認められる乙第九号証の一、二、および同人の証言によれば、右物品の購入時期は昭和三〇年より前と認められないから、いずれも昭和三〇年ごろ取得したものと認めるのが相当であり、またその取得単価は右目録中の被告主張の取得単価と同額と認められ、したがつて取得時期から譲渡時期までの経過年数は五年であるから、前同様の方法により各物品の減価償却額を算出すると右目録中の被告主張の減価償却額となるから、同目録1、5、6の物品についてはその取得単価に数量を乗じた額より、同目録2ないし4、10ないし12、14および15の物品については取得単価より、いずれも右減価償却額を控除した差引取得価額が法定の取得価額となり、右差引取得価額は金八九、四八二円である。

(五)  以上説示したとおりであるから、控除すべき取得価額は、

1  別紙不動産目録一の土地の取得価額 金五九、一〇四円

2  同目録二の家屋(増築部分を含む)の取得価額 金二八五、八四九円

3  同目録三の土地の取得価額 金三四七、七四五円

4  同目録四の家屋(増築部分を含む)の取得価額 金三七一、四八三円

5  別紙営業用什器備品目録記載1ないし6、10ないし12、14および15の物品の取得価額

合計金八九、四八二円

以上総計金一、一五三、六六三円となる。

四、以上認定の事実によれば、本件資産の譲渡に因る課税譲渡所得金額は、所得税法第九条により次のとおり、金一、二二三、一六八円となる。

<省略>

五、そして、昭和三五年度中の原告の前記不動産所得金一五四、九一八円、同給与所得金九六、〇〇〇円に右譲渡所得金一、二二三、一六八円を合算すると金一、四七四、〇八六円となり、この課税所得金額は、同年度中における原告の事業所得について判断するまでもなく、原決定の課税所得金額金一、四二九、九四二円を超過する。

六、してみれば、原告の昭和三五年度分の課税所得金額を金一、四二九、九四二円としてなした被告の本件所得税額金三一一、九七〇円の決定は右譲渡所得の認定に誤りがあつたとはいえ、結局なんら違法ではないというべきである。

そして、原告が同年度分の所得について確定申告書を提出しなかつたことは当事者間に争がないところであるから、被告が改正前所得税法第四四条第四項にもとずいて右のとおり所得税額を決定するとともに、同法第五六条第三項により、右所得税額の金一、〇〇〇円未満の端数を切捨てた金三一一、〇〇〇円に一〇〇分の二五の割合を乗じて計算した無申告加算税額金七七、七五〇円を課すると決定したこともなんら違法ではないというべきである。

したがつて、原告の本訴請求はその理由がないから失当として棄却すべく、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大島斐雄 裁判官 土川孝二 裁判官 熊本典道)

不動産目録

一、沼津市本字七通三三三番の四五

宅地 二四坪八合六勺

二、同所同番の四五

家屋番号七通第三番の一七

木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建店舗兼居宅一棟

建坪 一九坪三合七勺

二階坪 八坪

三、同所三五〇番の一七

宅地 四一坪七合二勺

四、同所同番の一七

家屋番号七通第四二番

木造瓦葺平屋建居宅一棟

建坪 一〇坪

商品目録 食料品(罐詰類)

<省略>

食料品(乾物類)

<省略>

食料品(佃煮)

<省略>

食料品(調味類)

<省略>

食料品(飲物)

<省略>

食料品(その他)

<省略>

穀類

<省略>

菓子類

<省略>

北粧品

<省略>

青果物

<省略>

雑貨類

<省略>

営業用什器備品目録

1 原告主張のものは、1ないし15の物品について、

被告主張のものは、7ないし9、13を除くその余の物品について

2 取得単価、取得年月、減価償却額、差引取得価額について併記してある数字のうち右側が原告、左側が被告の各主張にかかるもの

3 右7ないし9、13を除くその余の物品についての耐用年数は当事者に争がない。

<省略>

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